大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)1166号 決定 1950年11月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岸達也の上告趣意について。

上告趣意第一点乃至第五点の論旨は、いずれも原審に対する控訴趣意において申立てられていないものであり、また、原審は右論旨のいずれについても職権で調査し判断しなければならないものではないから、原審の是認した第一審判決の量刑を不当とする上告趣意第六点とともに第二審判決に対する上告適法の事由を定めた刑訴四〇五条各号のいずれにも明らかに該当しない。しかのみならず(一)記録によれば被告人は昭和二四年五月二〇日館林簡易裁判所裁判官河内雄之の逮捕状によって同日午後三時邑楽地区警察署において逮捕され、同日午後三時半同署に引致され、翌二一日に被告人の司法警察員に対する第一回供述調書が作成されたことを認められる。ところで、刑訴二〇三条によれば司法警察員は逮捕状によって被疑者を逮捕したときは直に犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げなければならぬのであるから、前記邑楽地区警察員はすくなくとも被告人を逮捕した当日たる二〇日中には被告人にこれを告げている筋合である。されば逮捕の日の翌二一日に至って司法警察員が被告人を取調べるに際し重ねて犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げるの要のないことはいうまでもないところであるし、また、司法警察員がこれ等の事実を被告人に告げたことを必ず調書に記載すべき旨の法令の規定も存しないから、所論の司法警察員に対する被告人の供述調書に司法警察員が被告人に対して犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告知したことの記載が存しないからといって、被告人の抑留をとらえて憲法三四条に反するものということはできない。従って所論の司法警察員に対する被告人の供述調書は不法な勾留中において作成された供述調書とはいえないから、仮りに所論のように不法勾留中に作成された被告人の供述調書はこれを証拠とすることができないものであるとしても、論旨第一点はその前提を欠きとるをえない。(二)自首減軽は事実裁判所の裁量に委せられていることがらであるから、自首の主張があってもこれが判断を示す必要がなく、また自首の事実があっても刑を減軽しなければならないものでもない。されば第一審裁判所が自首の点について何等触れるところがなかったからといって違法であるとはいえない。しかのみならず所論の司法警察員に対する被告人の供述調書中(御署では私達を探している処で……」の被告人の供述記載に徴し被告人は本件において罪を犯しいまだ官に発覚せさる前に自首したものとはいうことができない。されば、論旨第二点は単に訴訟法違反の主張としてもその前提を欠きとるをえない。(三)一件記録を閲するに原裁判所は適法な公判手続を経て本件を審理判決しているものと認むるに充分であるから、原判決には法律に定める手続によらないで刑を科したというような違法は存しない論旨第三点はとるをえない。(四)審判の公開に関する規定に違反したことを理由として控訴の申立をなす場合の刑訴三七七条の規定は同四一四条により上告審にも準用されるのである。しかるに本件上告趣意書にはその点につき何等の証明保証書をも添附していないから論旨第四点は不適法として採用し難い(昭和二四年新(れ)五六二号同二五年七月一三日当法廷判決判例集四巻八号一三四三頁以下参照)。(五)第一審公判廷において第五点の論旨のように裁判所が被告人に質問をなした後に証拠調をしていることは記録上明らかであるが、証拠調前にかゝる質問をすることは被告人を訴訟当事者としてではなく、証拠方法として取扱ったという公式論者のそしりを免れないだけで、裁判所がその裁量に基き必要であると思料して質問し、被告人がこれに対し任意に供述をした以上必ずしも違法であるということはできない。(六)第六点の原審の是認した第一審判決の量刑不当の論旨も亦刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四一四条、三八六条一項三号に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例